新しい「雇い方」=「働き方」のきざし

最近、求人サイトなどを見ていてきざしを感じるのは、雇う側も「自由な雇い方」になってきているのかな、ということ。まだまだ、少しづつの変化なのですが。

この変化は、1)自社の事業である新規事業の支援の過程で起こる人材募集の観点と、2)組織を離れて独立した自分自身の起業プロセスの観点の両面で、非常に興味深いものと感じます。

これまで求人というと、かなりカッチリしたフォーマットで募集されていて、例えばアルバイトであれば、何曜日の何時から何時までの勤務、休憩は何分で時給はいくら、といったことが、あらかじめ規定されているものでした。

これは特にいわゆる「下請け」とか「外注」の請け仕事だと、元の発注主に対してもこうしたカッチリした条件での契約をしている関係で、そうならざるを得ないんだろうと思います。また、大企業だと、コンプライアンスだとか管理の都合上、こうしたフォーマット化されたもので労働を把握し管理して行かなければならない、ということもあるのでしょう。

しかし、冷静に考えると、例えば書類の仕分け作業で納期・完了期限が毎週金曜の15時であれば、それに間に合うなら、仕分けが終わるのが2日前の水曜日の午前中であろうと当日金曜日の朝であろうと構わないはずです。それを、木曜日の10時から15時までの事務作業という形で、時間や賃金を原則固定してアルバイトであれ、さらには社員であれ雇用してきたのが従来の方法でした。

しかし、この従来の雇い方だと、水曜日なら時間が空いているのに木曜には別な予定がある、という人に仕事を依頼することができません。仮にその人がとても正確で優秀な書類仕分けのプロであったとしても、木曜の指定時間に来れる人がちょっといい加減でミスをよくするような人しかいなければ、その人に頼むしかなかった。

そして、求人関連のサービスも、こうしたカッチリしたフォーマットに沿って組み立てられているので、自由度の高い求人というのがそもそも難しかった、という事情があるのかもしれません。

最近になって、費用を払って利用する従来型の求人サービスの他に、ジモティのようなローカル情報の無料掲示板サイトで求人したり、求人サイトでもindeedスタンバイのようなリスト型・検索型で掲載無料のものが出てきたりしていることで、特に中小企業でも若い会社の求人は、こうしたサービスやサイトを通じて行われ始めているように感じます。

そうした会社の求人は従来の求人スタイルからは自由で、たとえば時給は◯円だけど終わってしまえば帰っていいです、というような実質的に出来高払いであったり、だいたいこのくらい払うけど時給で払うか1回いくらで払うかは相談して決めましょう、といったものを実際に見かけています。また、働く時間についても、いついつまでに終わっていれば問題ないから、それまでに終わらせてくれればいつやってもらってもいいです、といった求人も、やはり実際にありました。

まだアルバイトがメインですが、こういう求人募集が出てきてることは、これからの雇い方の進む方向を示唆しているように思います。

労働法制的に、こうした求人やそれに基づく雇用が現行法上問題ないかというと、微妙な部分はあるのかもしれません。ただ、適性や能力に関係なく時間で拘束し、働く側の都合より雇う側の管理の都合で勤務時間を拘束する、というやり方は、人手不足の今の日本においては、ふさわしくないものになっている、ということは言えると思います。

もちろん、こうした雇い方ができる仕事とそうでないものはありますが、一律に労働時間の長さと給与や働くタイミング(日時)を固定した「働かせ方」は、副業の解禁などとともに、再考するする時期に来ているのかと思います。

それをやると労務管理が複雑化する、という声が聞こえそうですが、そういう仕事こそデジタル化し、近い将来にはAI等も導入して管理すればよく、ついでに会社の管理部門のスリム化を図っていく、ということが大切なのではないかと思います。

そして、こういう働き方が一般的になるなら、仮に組織を離れて独立しても、自分の事業が軌道に乗るまでの間は、自分の事業に支障のない空き時間に自由度の高いアルバイトなどの雇われ仕事を取り入れて最低限の収入を確保する、ということが可能になるはずで、そうすれば独立に対するハードルも低くなるのではないか、と思います。

さらには、自分の事業と直接間接に関連するようなアルバイトをすることで、単に収入を確保するだけでなく、雇用主との人脈形成や、業界知識の習得、リアルな定性的マーケティング情報の収集など、お金では測れない価値を得ることすら可能でしょう。この点ついては、以前にも指摘しました。

 

実は私も、ご近所の貸会議室の管理の仕事を見つけたので、自社事業とは別に個人としてそのアルバイトを始めています。金額的な実入りは微々たるものですが、時給とはなっているものの、やることをやればそれでOK(規定時間ではなく成果に対する報酬)で、前回の利用から次の利用予約までの間の都合の良い時にやればよい、という雇用主側からの承諾をもらっているので、自宅の行き帰りの少しの時間を使ってやるだけですから、負担も微々たるもの。その代わり、会議室を借りたいとなればそこを借りればよいですし、貸会議室ビジネスの実情(稼働率など)も見えてくるなど、興味深いものがあります。また、雇用主との良好な関係もあり、出張不在などの際に融通を利かせてもらえるのも、さらに柔軟な働き方が出来てありがたいところ。

近い将来には、こういう雇い方=働き方が増えてくるのだろうと思われ、そうなれば自分が働くことをもっと柔軟に組み立てられることになるので、組織に属するか否かという境界線も今よりは曖昧になって、独立を考える人にとってはハードルが低くなる可能性もあるかな、と思っています。

ただ、働く側が、そうした働き方に順応して労働観をアップデートし、自分で組み立てるスキルを持つことは必要にはなってくるので、雇う側とともに雇われる側(働く側)の意識も変わっていく必要はありそうです。