「副業(複業)」を考える 〜本当に”コンビニのレジ打ちしてもしょうがない”のか?〜

昨今の「働き方改革」で注目されている「副業(ないし複業)」。

主には、企業に勤める人が、別な企業の仕事をすることをもって「副業」と定義し、従来は就業規則で禁止してきた「副業」を認めよう、という流れになっていることは、ご承知の通りです。

私自身は、勤めた会社が副業禁止でしたのでこの意味での「副業」の経験はないのですが、それだけに、この副業の定義にはちょっと違和感が。

人生100年時代と言われる中で、副業とは定年という強制的に迎えざるを得ない節目を乗り越えて仕事をして行くために、新しい仕事の可能性をテストをし、スキルや経験などを積んでいくためのもの、と広く捉えるのが本筋ではないか、と思うのです。それが当たり前になると、事実上、定年の規定自体が無意味になるので、今の20-30代の人などは、それが当たり前になるのかも知れない。そして、副業は今の本業のクオリティを高めてくれる可能性すら秘めているのではないか、と。

そうであれば、現在、自分が勤めている会社の仕事でも、日々行っている業務とは異なる仕事、例えば兼務先の業務は「副業」と捉えることができるし、出向などとなればなおさら、出向先での業務は「副業」に近いものではないでしょうか。

また、そういう捉え方をするなら、時給がいくらか、というのも、必ずしも問題ではなくなります。もちろん、じりじりと給与が減っている現実の中で、副業で稼いで生活費の足しにすることが切実なケースもあるのだと思います。副業の話題を扱った記事で、「副業解禁と言われても、今さらコンビニでレジ打ちのバイトしたってなぁ…」というような声が紹介されていたりするのですが、これは生活費をどうするか、という視点での話。

しかし、実際のところ、バイト的な副業であれば、コンビニのレジ打ちではなくても、どんな仕事でも時給の額などはたかが知れていて、そうした副業分の収入など、お小遣いの足しになるくらいがせいぜいではないでしょうか。

よほど生活費に困っているのでない限り、副業は直接的に「今の」お金を稼ぐため、というよりも、「将来の」お金を稼ぐために、知識や経験、スキルや人脈などを得るためのもの、と捉える方が、長い目で見て役に立つのではないか、と思います。

私自身の、副業と本業、そして複業の捉え方を図にしてみました。

最初の本業(ここでは「本業0」としました)の時点は、つまり社会人としてのスタートであり、この時点で私が定義する意味での副業は、原則的にはしないほうがいい、と個人的には思っています。核となる仕事のスキルという土台がないままに副業を有効に積み上げて行くことは出来ないと思うので。そして、よく言われる「1万時間の法則」が、一つの仕事について一定のレベルに達したと考えらえるために必要な時間だとすると、最短で3年は一つ目の本業に時間を使えるのが理想的ではあるかな、と思います。実際には、なかなかそうもいかない事情が出て来るのかも知れませんし、最初に選んだ仕事や会社が3年の時間を使うに値しない、と判断したら、振り出しに戻してやり直しをする、という選択もありうるのだと思います。

一つ目の本業(本業0)が一定のレベルに達したところで、将来の「本業1」につながる副業をスタートさせ、時間を使ってレベルアップして本業と言えるレベルになれば、本業0と1は、お互いに「複業」の関係になって行きます。

そこにさらに副業2をスタートさせて…という形で積み重ねて行くことで、自分ができる仕事をポートフォリオ化していき、また本業間の相互作用を活かして、他の人には出来ない仕事のアウトプットが出せるようになってくれば、他の人に代えがきかない仕事、競合が存在しない=価格競争に巻き込まれにくい仕事ができるのではないか、と。もちろん、少々理想論すぎるきらいはあるかも知れませんが、市場が求める「本業」を選び、そこで各本業のレベルを長く維持して行くことができるなら、これはあながち絵空事でもないと思うのです。

こうして、3つの本業がしっかりと並存して、そのシナジーが生まれる状況は、藤原和博さんがいう「100万人に一人の人材」になれている、という状況なのだとも理解できます。

自分を100万分の1のレアカード化させよ――藤原和博氏が語るAI時代にも価値を創出する働き方

じゃあ自分はどうなんだろうということで、「副業」を上に書いた私なりの定義で捉えて、上の一般的な図式に当てはめて、自分の「本業」「副業」「複業」の棚卸しをしてみました。

 

会社勤めが1992年から2016年までの約25年、この間に「広告・マーケティング」「通信」「スタートアップの投資育成と事業開発」という、主に3つの業務ジャンルを経験しているので、本業が3つと言っていいかも知れません。ただ、「広告」については、ほぼ実務に触れなくなって10年近いので、現在は「マーケティング」「通信」「スタートアップの投資育成と事業開発」ということでしょうか。オーバーラップしている期間がありますが、3つの本業を25年でやってきたということで、一つの本業あたり7-8年の時間をかけていますので、1万時間の法則はクリアしていると言って良いのかと思っています。

通信については、広告の仕事をしている中で、通信機器メーカーの海外マーケティング動向のレポートを作成して直接クライアントの部長さんに報告するという、広告会社の業務としては少々毛色が異なる仕事をさせていただいたことがきっかけで興味を持ち、自分自身がそこに深入りすることでさらにレポートの水準を高めることができたことから、長らく主に欧州の携帯電話市場について定期的に足を運んで実態をつかんでいました。

それが基礎となって、通信会社の担当に変わってからは、広告宣伝の仕事はほとんどせず、通信機器メーカー時代に得た市場動向の知見を生かして、経営計画のディスカッションをお手伝いをしたり、新規市場開拓のフィージビリティのお手伝いをしたりしていたのですが、ご縁があってその通信会社に出向することになったのでした。

そこで通信の真正面の仕事をするつもりでいたのですが、運命のいたずらもあり、予期せぬことでしたがスタートアップ企業への出資や育成にチャレンジさせて頂くことになり、一時期は出資先の外資系スタートアップ企業の日本法人にCOOとして事実上の出向をし(ダブル出向はできないので、契約書上は業務委託でしたが)、国内事業を立ち上げるという経験もしました。

こうした過去の「本業」をお客様ごとのニーズに合わせてブレンドし、不足するスキルはパートナーと組んでサービスを提供しているのが、現在の私の仕事であり、アクティブビジョンという会社の業務です。

この先も、次の「副業」をテストし、いけそうであれば「本業」として積み上げて、さらに提供できるサービスの幅を広げていきたいと思っています。今後は年齢のこともあるので、「1万時間の法則」にかかる年数を10年くらいの長めのスパンで考え、70代ないし80代くらいまで働くとして、あと2つか3つの「本業」が積み上がるなら理想的だな、と思っています。

ただ、加齢の影響を織り込んで、今後はストック型で労働集約的ではない「本業」も考えていかないといけないな、と思うと同時に、健康維持の目的も加味して「肉体労働的」な「本業」も取り混ぜていけるといいのかな(それが、ひょっとして以前から構想としては温めているワイン(ぶどう)作りだったりするのかな?)、なんていうことも考えています。

最後はちょっと個人的な話になってしまいましたが、「副業」について、こんな視点で捉えてみたら、コンビニのレジ打ちだって違う見え方がするのでは、と思うのでした。いつどんな立地の店でどんなお客様が何を買っていくか、をリアルに知ることができる、という意味で、実はマーケティング調査になってしまう、それも(少ないとはいえ)お金をもらいながらできるわけですから。

それを、ご自身のキャリアの中でどう活かすか、と考えたら、ちょっと面白くないですか?というのが、最近の一連の「副業解禁」の動きを見ていて、思うことです。