学歴と、報酬と。

4月も終わりに近づいて、ぎこちなくいつもの風景に割り込んできていた新入社員のういういしい姿も、徐々にいつもの日常に馴染んで溶けていっているなぁ、と思う頃になりました。

新入社員のうち、ないし、新卒での就職活動には、人物の選考とか評価判断に学歴というものが大きな比重を占めていて、それはまだ社会人としての実績がなく、他にこれといった汎用の判断基準がないため致し方ない部分もある、とは思います。

ただ、これが社会人になって10年20年と仕事をしてきた人でも学歴に縛られるのだなぁ、という事例を、ここしばらくの間でいくつか見聞きしました。こういう人の場合、第一義的に業績や成果を含めた職歴で評価されるのが妥当だと思いますが、実際にはなかなかそうでもない。

一定以上の仕事上の業績があると周囲が認めるような人であっても、転職もさることながら、学び直そうとして大学院に行こうにも、四大卒の学歴がないばかりに事実上の門前払いを食らう、というのは、自分の周囲でも散見される事実。

そして、サラリーマンであれば会社の規則上、最終学歴によって報酬(給与)の差がついてしまうように定められている場合が多いですが、組織に属さない自営業であっても、学歴がないが故に正当と思う報酬額を設定できないケースがある、というのを改めて知りました。十分な業界経験と実績があるにも関わらず、学歴が低いことが心理的な負い目となって、正当と思える報酬額を提示・設定することに躊躇してしまう、ということのようです。また、実際に、学歴で文字通り「値踏み」をし、支払う報酬額以上の業務の成果を求める、つまりは安く使おうとする人もいるようです。

もちろん、大学に行っている期間は働かずに授業料を払って学んでいる分、卒業後にその投資を回収できる報酬が得られることは理にかなっている部分はあると思いますが、実績がありながら学歴のなさが心理的な負い目になって、正当な報酬を設定できないのは悲しい現実だなぁ、と。

学歴で人を見る、というのは、必ずしも日本に限ったことではない事態。一方で、若いうちに学歴の全てを積み、その後は働くだけ、というのは、これはかなり日本に特有の事態。平均の大学の進学年齢が日本ほど若い国も珍しい、というデータをどこかで見かけました。

そうであれば、どこかのタイミングで、例えばそれが仮に60を過ぎてからであったとしても学び直しの機会を得て、学歴に関する負い目を解消し、自信を持って正当と思う報酬を設定できるようにするということは、とても理にかなった時間とお金の投資ではないか、と。

少子化で高校から進学してくる学生が減っていく分、こうした社会人の学び直しで学歴を補充する機会を広げることに、大学が取り組んでくれるといいなと思いますし、自分も、タイミングをみて、大学あるいは大学院での学び直しの機会があれば、と、中期的な将来計画の一つには入れているところです。

大企業の新規事業・スタートアップ連携成功の最重要ポイント

昨日はKDDIの高橋社長が就任後初めてのプレスカンファレンスを行ない、その報道やSNSへのジャーナリストさんの書き込みなどを追っていました。

色々なテーマに関して新たな発表もありましたが、中でも、総額200億円でKDDI オープンイノベーション3号ファンドをスタートさせることについて、興味深く拝見していました。

KDDIがオープンイノベーションファンドを発表したのが2012年。その前年にはKDDI∞Labo(ムゲンラボ)がスタートしています。実に7年もの間、継続的に、ファンドからの投資や、インキュベーション・アクセラレーションプロブラムの実施によって、スタートアップ企業と関わり続けています。

そういう継続的な取り組みが下地にあることで、ソラコムなどの資本提携も実現し、そのソラコムが3号ファンドではIoT分野の投資先ソーシングや事業シナジーの設計などを担当すると読みとれるスライドをSNSでみました。

∞Laboの初回の挨拶に登壇した当時の田中社長もそうですし、また現社長の高橋さんも、一貫してスタートアップ企業への前向きな取り組みスタンスがぶれていないこと、これが、KDDIがスタートアップ企業との取り組みに意欲的な企業のナンバーワンという調査結果につながっており、実際に様々な成果が生まれつつあることの最重要ポイントである、と感じています。

もちろん、社内の担当者がハッパをかけられている(であろう)こともわかりますし、平坦な道のりではないことは想像に難くありません。こうした担当者の努力もなければここまで続いていないと思います。

一方で、担当者の意欲は高いのに、トップの方針変更で、実を結ぶことなく終わってしまう大企業のベンチャーとの取り組みも、決して少なくないように思います。ずいぶん前ですが、各企業のインキュベーション・アクセラレーションプロブラムの継続回数を調べてみたら、回数にして2-3回、年数にして2年前後で終了してしまっているものが大半でした。こうしたプロジェクトに積極的に関わっていた担当者の無力感や失望を考えると、とても辛いものがあります。

これは、スタートアップ企業との連携にとどまらず、新規事業開発でも似たような現象が起きているように感じます。

ある大きな企業の依頼で、成功する新規事業・スタートアップ連携の要因について講演をさせていただいたことがあるのですが、色々な要因はあるものの、何よりトップの積極的な姿勢がぶれないこと、それが最重要のポイントであると申し上げたのですが、改めてその通りだと思います。

自分が少し関わらせていただいたので贔屓目も多分にあるのかもしれませんが、離れてある程度客観的に見ている(はず)の今でも、これはなかなか得難い状況だな、と思いつつ、高橋新社長の下で働いてみたかったな、と、独立してしまったことを少し残念に思いながら会見の記事をよみました。